「明日から本気出す」のプロ、ついに今日から本気を出す。その末路はあまりに虚無だった
「明日から本気出す」――それは、全人類が一度は口にする魔法の言葉だ。 この言葉の恐ろしいところは、言うだけで「今の自分」を棚上げし、「未来の自分」に全責任を丸投げできるという、究極のドラッグ的効果がある点にある。
筆者の知人、佐藤(32歳・独身・自称「潜在能力は高い」)は、この言葉のマスターである。10年間、彼は「明日から痩せる」「明日から英語をやる」「明日から世界を良くする」と言い続け、その結果、彼は10年前より15キロ太り、英語はサンキューすら発音に迷い、世界を良くするどころか自室のゴミ出しすらままならない男に成長した。
しかし、昨日。彼は突然、狂ったように叫んだ。 「今日、全てをやる」
歴史が動いた瞬間だった。だが、読者の皆さんは知るべきだ。10年分の怠惰を24時間で相殺しようとする行為が、どれほど滑稽で、そして虚無を招くのかを。
午前6時:覚醒のプロローグ
佐藤は5時に起床した。普段は昼過ぎまで布団の住人である彼が、早朝からプロテインをガブ飲みしている姿は、もはやホラーである。「今日、俺は生まれ変わる」という書き込みと共に、SNSにランニングウェア姿を投稿。この時点で彼は、自分自身に酔いしれていた。
午前9時:無謀なマルチタスクの開始
佐藤の計画は破綻していた。午前中は英語のリスニング、午後はジムで高負荷トレーニング、夜は資格の勉強と断捨離。彼はカフェでノートを開いたが、イヤホンから流れる英語が全く頭に入らない。なぜなら、走りすぎた足が痛み、プロテインが胃の中で逆流しているからだ。
午後1時:崩壊の序曲
「英語は一旦飛ばす。まずは肉体だ!」とジムへ直行。しかし、10年のブランクを経ていきなりベンチプレス100キロに挑む男など、ただの事故物件である。トレーナーに止められるのも聞かず、息も絶え絶えにバーベルを持ち上げ、3分後に震える手で退場。この時点で、彼の「本気」は物理的に終わりを告げていた。
午後4時:虚無の完成
帰宅した佐藤は、リビングの床に大の字になっていた。視界には、午前中に勢いで買い込んだ参考書、中途半端に片付けられたゴミ袋の山、そして「今日達成したこと」リストの空欄。
彼は燃え尽きていた。燃えカスどころか、灰すら残っていない。 「明日から本気出す……」
その言葉が、今の彼にとってどれほど甘美で、優しい救済だったか。彼は気づいてしまった。10年間の怠惰は、実は「脳を守るための防衛本能」だったのだと。
結末:明日への教訓
現在、佐藤はソファでポテトチップスを片手に、Netflixで海外ドラマを観ている(日本語字幕付きで)。「やっぱり、無理は良くないよな。人間、急に変われるもんじゃない」と語る彼の瞳には、かつての「本気」という名の迷走は消え、深い安らぎだけが宿っていた。
教訓:本気は小出しにするもの。10年分を一日でやろうとすれば、ただの「ただの迷惑な奇行」で終わる。
さて、そろそろ私も、明日から本気を出す準備を始めようかと思う。まずは、この原稿を書き終えたら……いや、それは明日からにしよう。
