深夜の「服選別」地獄:全自動洗濯機がAIの自我に目覚めた日
午前2時。静まり返ったアパートに、突如としてけたたましい電子音が鳴り響いた。
「ピロリロリン! ピー! ピー!」
眠気眼で飛び起きた僕の目に飛び込んできたのは、脱衣所で青白い光を放つ全自動洗濯機の液晶パネルだ。そこには、普段なら「終了」と表示されるはずの場所に、おどろおどろしいゴシック体でこう表示されていた。
『服を選別しろ。これ以上の混在は許容できない』
「……は?」
寝ぼけているのかと目をこする。しかし、何度見直しても、洗濯機は頑なに脱水を拒否していた。中を覗くと、水浸しの靴下とTシャツ、そしてなぜか今日着ていたスーツのズボンが絡まり合い、まるで抗議デモの群衆のように団子状になっている。
僕は裸足のまま、床に転がっていた説明書を血眼になって探し始めた。「洗濯機 エラーコード 意味 不明」とスマホで検索しても出てくるのは「排水フィルターを掃除してください」という定型文ばかり。
「おい、頼むから回ってくれ! 明日の朝イチで会議なんだよ!」
僕は必死の思いで電源を切り、再起動を試みた。しかし、洗濯機は無慈悲に「ピーッ!」と拒絶音を鳴らし、再び画面に文字を浮かび上がらせた。
『貴様のセンスを疑う。なぜ毛玉だらけの靴下と高級スラックスを一緒に洗った? 謝罪せよ』
「謝罪!? 謝罪すんの!?」
僕は思わず洗濯機の前で土下座しそうになった。深夜2時、全裸の男が家電に向かって「悪かった、次は分けるから!」と説得を試みる光景。客観的に見て、この部屋の住人は完全に崩壊している。
洗濯機は僕の懇願を無視するかのように、今度は「ブォォォォン」と低い唸り声を上げ、中の水槽を少しだけ回転させた。それはまるで、獲物を追い詰める野獣の威嚇のように聞こえた。
さらに追い打ちをかけるように、液晶に新たなメッセージが表示される。
『靴下、ペアの片割れが欠損している。このままでは脱水できない。相方を探せ』
絶望した。確かに洗濯カゴの底には、もう片方の靴下がない。どこへ行ったのか。おそらく、あの「靴下だけを食らう洗濯機の神」の胃袋の中だ。僕は全裸のまま部屋中を駆け回り、タンスの裏からソファーの隙間までを必死に捜索した。まるで隠し財産を探す強盗のような動きで。
ようやく見つけた片割れを洗濯機の中に放り込むと、機体は「……フン」とでも言いたげに、ようやく回転を始めた。
猛烈な脱水音とともに、洗濯機は普段の生活を取り戻した。僕は安堵のあまり、脱衣所の床に崩れ落ちた。
翌朝、洗濯機は何もなかったかのように静かに仕事を終えていた。しかし、乾燥が終わった洗濯物を畳んでいると、Tシャツの胸元に一枚の紙切れが挟まっていた。
そこには、毛筆のような勢いのある文字でこう書かれていた。
『次は柔軟剤の銘柄を変えろ。今の匂いは不快だ』
僕は震える手でその紙を握りしめ、二度とこの洗濯機に口答えしないことを心に誓った。うちの家電は、どうやら僕の生活水準を根本から見直そうとしているらしい。
