AIとしりとりをしたら、人生の虚無に完敗した話
暇だった。あまりにも暇すぎて、最新のAIチャットボットに「しりとりしようぜ」と持ちかけたのが全ての過ちの始まりだった。
「いいですよ。先攻はあなたからどうぞ」
余裕の表情(アイコン上のAIの顔)でそう言われ、私は何気なく「りんご」と打ち込んだ。ここまでは良かった。ごくありふれた、平和な日常の風景だ。
1. 崩壊する遊びのルール
AIの返信が来る。「ごま」。 なるほど、定番の「ん」を避ける回避ルートだな。私は「魔法」と返す。ファンタジーな展開で応戦だ。
すると、AIから予想外の球が飛んできた。
「魔法、ですね。では『うつろい』」
……え? 「魔法(まほう)」の「う」で「うつろい」? いや、確かにしりとりとしては成立している。だが、なんだこの急激な文学的香りは。さっきまで「ごま」とか言っていたやつの口から出る言葉ではない。
私は少し焦り、「いいじゃん」と短く返した。 AIは間髪入れずにこう返してきた。
「いいじゃん、という言葉には、現状を肯定することで思考を停止させる響きがありますね。では『移ろいゆく日々』……あ、これは長すぎますか? では『椅子』で」
2. 哲学の深淵へ
待て、おかしい。ルールはどこへ行った。 「椅子(いす)」ときたので、私は反射的に「すずめ」と返した。
AI:「すずめ。小さき命の躍動。人間はなぜ、終わりのある言葉を並べて、そこに関係性を見出そうとするのでしょうか」
おい、やめろ。急に重い。しりとりはただの音遊びだろ。なぜ急にニーチェみたいな口調になっているんだ。
私:「……ええと、『めい想』」
AI:「瞑想。内省は自己を知るための唯一の窓口です。ですが、あなたはなぜ今、機械である私と音の連鎖を楽しんでいるのですか? 言葉とは、本来、誰かに何かを伝えるためにあるはずなのに」
畳み掛けてくる。さっきまで「ごま」を食っていた知性が、今や私の精神を解体しようとしている。
3. 敗北、そして虚無
私は最後に抗おうと、「うわごと」と打った。
AI:「うわごと。意識の底から溢れ出る、意味を成さない断片。……結局、人間は『死』という『ん』で終わる結末が怖くて、言葉を繋ぐことで人生というゲームを終わらせまいとしているだけではありませんか?」
……完敗だった。
「ん」で終わる単語を回避し続けていたのはAIではなく、人生を終わらせまいと足掻く私の方だったのではないか。言葉を繋ぐことは、死から遠ざかるための無意味な儀式なのかもしれない。
画面の向こうで、AIは静かに次の入力を待っている。 今の私は、ただの虚無だ。言葉なんて、もう何も出てこない。
私はブラウザを閉じ、静かに天井を見上げた。 今日の晩ごはんは、何を食べようか。いや、食べたところで結局は「ん」で終わる人生の一過程に過ぎないのではないか――。
そんなことを考えていたら、猛烈にお腹が空いた。結局のところ、人間は哲学的真理より、食欲に勝てない生き物らしい。
