「お任せで」の魔法を唱えた代償:鏡の中にいたのは、誰?
「似合うようにしてください」
この言葉は、美容院において最も洗練されたオーダーであると信じていた。雑誌のモデルを指差すのは野暮だし、細かい注文をつけて専門家である美容師のプライドを傷つけるのも気が引ける。だから私はいつも、全幅の信頼を寄せてこの魔法の言葉を唱えるのだ。
「お任せで」
しかし、この日、私はその魔法が時として「呪文」へと変貌を遂げることを知る由もなかった。
覚醒した鏡の中の異邦人
施術中、私は心地よい眠気に襲われ、深い夢の中にいた。ハサミの乾いた音を聞きながら、「きっと今頃、私の魅力を最大限に引き出す至高のカットが施されているのだろう」と高揚感すら覚えていた。
「はい、お疲れ様でした!」
美容師の明るい声で目を覚ます。私は期待に胸を膨らませ、ゆっくりと鏡に視線を向けた。
そこには、見知らぬ誰かが座っていた。
いや、正確には「私」なのだが、私の知っている私ではなかった。鏡の中にいたのは、まるで90年代のUKロックバンドのドラマーか、あるいは未来の惑星から来た反乱軍のリーダーのような男だった。
トップは過剰なまでに立ち上がり、サイドは慈悲深くも潔く刈り上げられている。美容師は満足げに言った。 「トレンドの『エッジィ・パンク・フェード』です! お客さんの骨格なら、これくらい振り切った方が絶対に映えると思って」
「……は、はい。とても、個性的ですね」
私は喉の奥から絞り出すような声でそう答えた。鏡の中の反乱軍リーダーも、引きつった笑みを浮かべてこちらを見つめ返している。会計を済ませるまで、私は自分が何者なのかを見失いそうな浮遊感の中にいた。
帰宅、そして訪れる悲劇
「ただいま」
玄関のドアを開けた瞬間、リビングにいた妻の手から湯呑みが滑り落ちた。猫が驚いて棚の上へと駆け上がる。我が家に漂うのは、驚きを通り越した静寂だ。
「……あなた、」
妻が震える指で私の頭を指差した。
「それ、工事現場の帰りに何かあったの?」
工事現場。その言葉の響きに、私の心の中で何かが崩れ落ちた。続いて部屋から出てきた小学生の息子は、私の頭をじっと見つめて一言、こう言い放った。
「パパ、それ『ドラゴンボール』のキャラクター?」
私の頭は、トレンドの最先端を行くはずが、アニメの悪役か何かにしか見えていなかったらしい。その夜、私は家族から「ベジータ」「あるいは、工事現場の監督」という不名誉な二つ名を授けられた。
教訓:魔法は慎重に使え
その日から私は決意した。「お任せ」は、宝くじと同じだ。当たれば奇跡だが、外れれば当分は帽子を被って生活しなければならない。
次に美容院へ行くときは、必ず写真を持っていくと心に誓った。それまではこの「エッジィ・パンク・フェード」とともに、少しばかり強そうな人間として生きていくことにする。
もし街中で、頭を逆立てた悲しそうな顔の男を見かけたら、それはきっと私だ。どうかそっとしておいてほしい。「美容院、失敗したんだな」と心の中で笑いながら。
