【実録】「出る」と噂の我が家で起きた、恐怖と脱力のビフォーアフター
一人暮らしを始めたばかりの夜ほど、想像力が暴走する時間はない。
築古物件、軋む床、外から響く風の音。「もしや、ここには“先客”がいらっしゃるのでは?」なんて不安が、静寂の中でじわじわと巨大化していく。かつての私もそうだった。しかし、私の経験した「恐怖」は、最終的にすべて「ただのアホな結末」へと着地することになる。
これから一人暮らしを始める勇者たちへ、私の武勇伝(という名の恥)を共有したい。
事件1:真夜中のパーカッショニスト
引っ越して三日目の夜、深夜二時。寝入った私の耳に、奇妙な音が届いた。 ドンドンッ、カッ、ドンドコ、カッ……!
一定のリズムで刻まれる、硬質な衝突音。心臓が跳ね上がった。誰もいないはずのキッチンから聞こえてくる。間違いなく、あれだ。幽霊が鍋を叩いて威嚇しているんだ。私は布団を頭からかぶり、震えながら神に祈った。「どうか、見逃してください。まだ敷金も返ってきていないんです」
しかし、音は止まない。むしろリズムが良くなっている。意を決して懐中電灯を片手にキッチンへ突入した私が見たのは、幽霊ではなかった。
そこには、脱走した近所の猫が侵入しており、私の愛用するタッパーをドラム代わりに、菜箸をドラムスティックのように操る「天才猫」の姿があった。猫は私と目が合うと、「え、邪魔?」という顔をして、スローテンポで立ち去った。あの時の、魂が抜けるような脱力感といったら。
事件2:鏡の中の「世にも奇妙な物体」
また別の日の深夜、トイレに起きたときのことだ。 真っ暗な廊下の先に、ぼんやりと映る人影があった。鏡の中に、ボサボサの髪が逆立ち、目の下に深い隈を刻んだ、世にも恐ろしい形相の何かが立っている。
「うわぁぁぁ!」と本気で叫んで、電気のスイッチに飛びついた。 明るくなった廊下。そこにいたのは、鏡に映った「寝起きの自分」だった。
あまりの生活感のなさと、あまりの寝癖のひどさに、叫び疲れた喉が止まった。幽霊なんて可愛いものだ。鏡の中にいるのは、もはや人間としての尊厳を失った“何か”だったのだから。私はそっと鏡に向かってお辞儀をし、「失礼しました」と謝罪して布団に戻った。
恐怖の正体は、だいたい「自分」か「日常」
一人暮らしの夜、何かが起きると、人は無意識に「非日常(幽霊)」を疑う。しかし、現実はいつだって「日常の延長」にある。
・変な音は、猫のセッションか、ただの冷蔵庫の霜取り音。 ・影は、だいたい自分の寝癖か、干したままの洗濯物。
幽霊を恐れて眠れない夜を過ごしているあなた、大丈夫だ。あなたが今恐れているその物音は、明日になれば「あぁ、あれか」と鼻で笑えるはずだから。
さあ、今日はもう電気を消して寝よう。もし何か音がしても、それはきっと、ドラムの練習を始めた近所の猫か、鏡の前で白目を剥いている自分自身だ。
