美容室で「お任せ」した結果、会社で伝説の悪役になってしまった話
月曜の朝、私は鏡を見て絶望した。そこに映っていたのは、社会人として終わっている男——いや、銀河を支配しようとする「某有名アニメのラスボス」そのものだった。
ことの始まりは土曜日の夕方。私は美容室で、美容師の店長にこう言ったのだ。 「最近、イメチェンしたくて。もう、すべてお任せで。かっこよくしてください!」
それが運の尽きだった。私の言葉を聞いた店長の瞳が、獲物を見つけた猛禽類のようにギラリと光ったのを覚えている。 「……なるほど。いいでしょう。あなたの内に眠る『何か』を、このハサミで引き出してみせます」
店長はそこから、憑依されたかのような手さばきでハサミを操り始めた。通常なら20分で終わるはずのカットに、なんと2時間。途中、シャンプー台で流されながら「仕上がりは革命的ですよ」という店長の自信に満ちた囁きを聞き、私はうっかり期待してしまったのだ。
しかし、クロスを外された瞬間にすべてを悟った。
鏡の中にいたのは、サイドを極限まで刈り上げ、トップを異常なまでの高さで逆立て、毛先を鮮やかなプラチナブロンド(?)に染め上げられた、宇宙を支配する気満々の男だった。
「……店長、これは」 「どうです! まさに『選ばれし者』の風格でしょう!」
あまりの完成度の高さに、私は何も言えず、料金を支払って店を飛び出した。
そして迎えた月曜の朝。帽子を目深にかぶり、俯きながらオフィスに潜入したが、運悪くエレベーターで直属の上司と鉢合わせた。 「おはよう……って、おい、その頭はなんだ?」
私は必死で誤魔化した。 「あ、これは……その、社内での『覚悟』を示すための……試験的なアバンギャルド・スタイルでして」 「アバンギャルド? お前、それ、昨日放送されたアニメの最終ボスの髪型にそっくりじゃないか。……おい、もしかしてその髪型、手で触ったらパキパキ音が鳴るのか?」
上司はニヤニヤしながら、私の頭に手を伸ばそうとする。私は必死で後退りした。 「いえ! 違います! これはあくまで……その、モダンな建築様式をインスパイアした……」
同僚たちが集まってきて、「おい見ろよ、〇〇さんが銀河帝国を作ろうとしてるぞ」「いや、あれはラスボスというより、ちょっと強そうな雑魚敵だな」と、もはや大喜利大会が始まった。
結局、その日は一日中、デスクの陰に隠れて「すいません、ちょっと頭が重くて……」とPC画面を見つめ続けるしかなかった。
帰り道、私は再び同じ美容室へ向かった。店長は私を見るなり、「お! さっそく評判を聞きつけましたか!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。
私は深呼吸をして、毅然と言い放った。 「店長。次は、これの逆をやってください。……ただの坊主でいいです」
かくして私の「悪役期間」は一日で幕を閉じた。鏡を見るたびに自分の頭が光り輝くのを見て、私は心から思う。美容室での「お任せ」は、人生最大のギャンブルである、と。
