「一生忘れられない夜」を贈るはずが…高級フレンチで起きた、前代未聞の爆笑プロポーズ事件
「この店なら間違いない」。
そう確信して予約したのは、ミシュランの星が輝く高級フレンチレストラン『ル・シエル』。重厚な扉、静寂に包まれた店内、そしてテーブルを彩る最高級のシャンパン。僕はポケットの中の指輪の箱を何度も確認し、心拍数が限界を超えていた。
プロポーズの計画は完璧だった。デザートプレートが出てくるタイミングで、お店の粋な計らいにより「あるキャラクターの被り物」をしたスタッフが登場し、指輪を持ってきてくれる……はずだった。彼女は極度のディズニーオタク。きっと、大好きなあのキャラクターのサプライズ演出に、涙を流して喜んでくれるはずだ。
「さあ、クライマックスだ」
僕は合図のナプキンを置いた。静まり返った店内に、軽快な音楽が鳴り響く。「来た!」と確信し、僕は跪いて彼女の手を取った。
「僕と、結婚してください」
その瞬間、厨房の扉が勢いよく開いた。
しかし、そこに現れたのは、愛くるしいミッキーマウスではなかった。
真っ赤な顔に、とんでもなく巨大な鼻。そして、何かの間違いかと思うほどに突き出た「ザリガニ」の被り物。しかもスタッフは、なぜか演歌の「北国の春」を陽気に口ずさみながら、カニのハサミをカチカチと打ち鳴らして登場したのだ。
……時が止まった。
店内の貴族のような客たちが、フォークを止めて凍りついている。僕の差し出した指輪は、目の前でダンスを踊る「陽気なザリガニ」にスポットライトを奪われていた。
彼女の顔色が、驚きから困惑へ、そして……「我慢の限界」へと変わっていくのが分かった。
「……ッ、プッ!!」
彼女が肩を震わせた。僕も必死に笑いをこらえた。「笑ってはいけないプロポーズ」という、人生で最も過酷な修行が幕を開けた。
「ふ、ふふ……えっ、ええええ!?」
彼女の口から漏れたのは、プロポーズの承諾の言葉ではなく、抑えきれない噴き出し笑いだった。僕もつられて笑いがこみ上げる。「一生に一度の感動的なシーン」のはずが、店内にはザリガニのハサミの音と、僕たちの耐えきれない爆笑が響き渡っていた。
結局、僕たちは涙が出るほど笑い転げた後に、ようやく指輪を渡すことができた。ザリガニのスタッフは、自分のミスに気づいたのか、顔面蒼白で厨房の奥へと消えていった。
帰り道、彼女は笑いすぎて目が赤くなった顔で言った。 「あんなザリガニにプロポーズされたの、多分世界中で私たちだけだよね」
計画は派手に失敗した。ロマンチックさはゼロだった。けれど、あんなに笑い転げたプロポーズなら、きっとどんな困難も二人で笑い飛ばしていけるはずだ。
もし次に高級フレンチに行くときは、絶対に「着ぐるみ系」のオプションだけは外そうと、心に誓った夜だった。
