「イケメンにしてください」と言った結果、僕の頭が2次元に侵食された話
人生、時には冒険が必要だ。 私は昨日、そんな「意識高い系」の思考に陥っていた。いつも通っている美容院で、マンネリ化した自分の髪型を見つめ、無謀にもこう告げてしまったのだ。
「あの、今日は少し冒険したいので……『イケメン風』にお任せでいい感じにしてください」
美容師の佐藤さんは、私の言葉を聞いた瞬間に目を輝かせた。「イケメンですね!お任せください、実は今、業界で一番キテるスタイルがあるんです。あなたの骨格と髪質なら、完璧に再現できますよ!」
その「完璧」という言葉の裏に潜む罠に、私は気づくべきだった。
鏡の中に現れた「伝説の戦士」
カット中、佐藤さんは一度も手鏡を見せてくれなかった。「完成までのお楽しみです」という言葉を信じ、私はうとうとと微睡んでいた。
そして、運命の「完成でーす」の声。 私は期待を込めて目を開け、鏡を見た。
そこには、鏡の中の自分を見た瞬間に心臓が停止する、という医学的にありえない体験をした男が写っていた。
……え? 誰?
私の頭の上には、重力に逆らって天を突く「V字の黄金アホ毛」が二本、誇らしげにそびえ立っていた。前髪は目元を隠すように鋭角にカットされ、サイドは毛先が銀河のように跳ね回っている。
そう、それは紛れもなく、かつて夜更かしして見ていた深夜アニメの「人類最強の戦士」そのものだった。
必死の言い訳劇が開幕
沈黙が流れる。佐藤さんは満面の笑みで、私の肩に手を置いている。
「どうですか! この圧倒的な存在感。今、この髪型ができるのは都内でも私だけです!」
絶望という二文字が脳内を駆け巡る。このまま外を歩けば、確実に「あ、コスプレイベント帰りかな?」という温かい目で見られる。だが、私はプロの美容師の熱意を無下にする勇気もなかった。
私は顔を引きつらせながら、震える声で口を開いた。
「……す、すごいですね。あの、これは……その、今日から『エッジの効いた自己表現』をテーマに生きようと思ってたんですよ。会社で、その、前衛的なクリエイターとして認識されたくて」
「なるほど! アーティスティックな方向性ですね!」と食いつく佐藤さん。
私は勢いに乗って続けた。 「そうなんです。あと、この、天に向かって伸びる毛は、常に上昇志向を持ち続けるという僕の強い意志表示でして……まさに、今の僕にぴったりです。ありがとう、佐藤さん。本当に、これ以上ない仕上がりだよ」
「次は眉毛も描き足しましょうか?」という佐藤さんの提案を、「いえ、それは明日からの……自分でやる儀式にとっておきます」と丁重に断り、私は会計を済ませた。
帰路という名のサバイバル
美容院を出た瞬間、私は即座にキャップを被った。 通りすがりの女子高生が、私のキャップから突き出した「黄金の二本のアホ毛」を二度見し、ヒソヒソと笑い声を漏らす。
私は「これは流行の最先端なんだ」と自分に言い聞かせながら、早歩きで帰路についた。
帰宅後、風呂場で鏡に向かって一人泣きながらバリカンを握ったのは言うまでもない。 教訓。美容院では「イケメンにしてください」という曖昧な注文は控えよう。もし冒険したければ、せめて「人間界のイケメン」という補足情報を入れるべきだ。
皆さんも、もし美容院で「アニメキャラ」にされそうになったら、迷わず逃げることをお勧めする。
