「絶対に笑ってはいけないオンライン会議」の末路:我が家の上司は猫だった
我が社の月曜恒例、進捗報告会。本来なら重苦しい空気が漂うはずのこの会議に、今週は部長がとんでもないルールを課した。
「今から『絶対に笑ってはいけないオンライン会議』を開始する。誰か一人でもニヤついた時点で即退室。このルール、異論は認めん」
リモートワークの弊害か、最近の部下たちの気の緩みを正すための暴挙だった。画面に並ぶのは、真顔で固まる20名の社員。沈黙が続く中、事件は始まった。
部長が進行を始めようとしたその時、画面の端から、茶トラの巨大な毛玉がヌルりと乱入してきた。部長の飼い猫「タマ」である。
タマは慣れた手つきで、いや、前足でノートパソコンの縁を掴むと、カメラの角度を絶妙に調整し始めた。俯瞰で部長を映していたアングルは、徐々にタマの「耳」と「ひげ」が画面いっぱいに広がる、いわゆる「猫視点」へと切り替わる。
「お、おい、タマ……戻れ!」
部長が慌てて猫をどかそうとした瞬間、タマは前足で器用にキーボードを叩いた。ピコーンというマイクミュートの解除音。そして次の瞬間、部長のマイクは「ミュート」に設定された。タマの肉球は、ショートカットキーを完璧に理解しているようだった。
会議室(という名のZoom)には、部長の必死の抗議が聞こえない。ただ聞こえるのは、タマの「ゴロゴロ」という喉の音と、キーボードの上で肉球が滑るカチカチというリズミカルな音だけだ。
部長の顔は焦りで真っ赤だが、画面にはタマのピンク色の肉球が映し出されている。それも、部長の鼻と口を完全に覆い隠す位置に。「ふがっ、ふがっ」と鼻を鳴らす部長の目だけが、必死に「笑うな」と訴えてくる。
そのシュールすぎる光景に、私は限界を迎えた。
最初に崩れたのは、一番堅物で通っている佐藤課長だった。鼻から盛大にコーヒーを噴き出し、マイク越しに「ブフッ」という低音の破裂音が響く。それを皮切りに、耐えていたメンバーたちの肩が揺れ始める。
結局、会議は終了した。全員が爆笑し、即退室させられた。
最終的に、タマは部長の顔を完全に隠したまま、画面に向かって「ニャア」と一度だけ鳴き、配信を終了させた。
翌日、部長は無言で全員を再招集したが、誰もその理由を問う者はいない。ただ一つ確かなのは、今週の進捗報告会は、我が社の歴史の中で最も平和で、最も猫の意志が尊重された会議だったということだ。
