織田信長、現代の居酒屋で「焼き鳥」にブチ切れるの巻
「貴様、その手に持っているのは何だ!」
金曜の夜、都内のどこにでもある普通の居酒屋で、その男は叫んだ。漆黒の陣羽織をまとい、腰には名刀・へし切長谷部。周囲の客が「あ、コスプレのオフ会かな?」と生暖かい目で見守る中、織田信長は震える指で店員のトレイを指差している。
運ばれてきたのは、至って普通の「焼き鳥盛り合わせ」。こんがりと焼けた鶏肉に、照り輝く秘伝のタレ。しかし、信長の目にはそれが地獄の業火に包まれた「本能寺」の残骸に見えていた。
「またか……また我を炎で包もうというのか! 明智、貴様か!」
信長は椅子を蹴り飛ばし、叫びながらテーブルの上の突き出し(枝豆)をマシンガンのように投げ始めた。「天下布武」を掲げた男の最後が、まさかの焼き鳥への逆襲とは誰も想像しない。
事態を収拾しようと店長が駆け寄るが、信長はなおも激昂している。
「この鶏肉! よく見れば串に刺さっておるではないか! まるで……まるで我の腹を突く槍のようだわ!」
現代の居酒屋は、戦国武将にとってトラウマのデパートらしい。隣のテーブルでは若手社員が「とりあえず生で!」と叫んでいるが、それを聞いた信長は「生! 生か! 焼き殺されるよりはマシということか!」と、謎の納得をして生ビールをジョッキごと奪い取り、一気飲みして豪快に笑った。
その後、信長は店員を呼び止め、メニューを指差して冷徹に命じた。
「我は、焼いてあるものは二度と食わん。これを持ってこい」
彼が指差したのは「刺身の盛り合わせ」だった。 「やはり、刺すのが一番だ。串ではなく、包丁でな」
結局、信長は店内の騒ぎを横目に、マグロの刺身を美味しそうに平らげた。帰り際、彼はレジに置かれた「飴ちゃん」を手に取り、ポツリとこう呟いた。
「なるほど、これが現代の『金平糖』か……。ふむ、悪くない。これならば裏切ることもなかろう」
店を出て夜の新宿に消えていく信長の後ろ姿を見ながら、店長は深いため息をついた。 「……明日の予約リストに『豊臣秀吉様・1名様』って入ってるんだけど、どうすればいいんだよ」
その夜、新宿の夜空には、本能寺の炎の代わりに、酔っ払った信長の高笑いが虚しく響き渡っていたという。
