意識高い系を気取った代償。ジム初日で繰り広げた「逆立ち」の悲劇
ついに契約してしまった。月額1万円、24時間使い放題のフィットネスジム。 私の脳内ではすでに、最新のドライフィットウェアに身を包み、鏡に映る仕上がった肉体をチェックしながら「自分、ストイックだな」と独りごちる未来の自分が完成していた。
当日。私は鏡の前で入念に準備した。ネットで厳選した「プロテインの泡立ちが美しいシェイカー」、海外のフィットネスインフルエンサーが愛用しているという「やけに重厚感のあるリストバンド」、そして、自分の足音をあえて響かせるための「ソールが異常に厚いハイテクスニーカー」。
どう見ても、今日から筋トレに人生を捧げる玄人にしか見えない。私は鼻高々に、ジムの扉を開いた。
「おはようございます!」
受付のスタッフに爽やかに挨拶し、いざマシンの並ぶ聖域へ。そこには、タンクトップから溢れ出る大胸筋がもはや凶器と化している強者たちが、静寂の中で鉄を叩きつけていた。
私はその空気に飲まれそうになりながらも、背筋を伸ばし、最も難易度が高そうで、かつ「いかにも効果がありそう」な最新の多機能マシンを選んだ。見たこともないアームが四方に伸び、無数の調整レバーがついた、まるで宇宙船のコクピットのような代物だ。
(よし、まずは肩周りから攻めて、デキる男を演出してやる……!)
私は確信を持って、シートに深く座り込んだ。両手をハンドルにかけ、勢いよくレバーを引こうとした、その瞬間だった。
「ガチャンッ!」という乾いた音と共に、私の体は物理法則を無視した動きを見せた。
どうやら私は、負荷を調整するためのストッパーを完全に外してしまっていたらしい。重厚なウェイトが轟音を立てて落下し、それに連動したシートが恐ろしい勢いで背後にスライド。私はそのまま、まるで打ち上げ花火の如く空中へと放り出された。
視界がぐるりと180度回転し、私の視線は天井の蛍光灯と、困惑しきったマッチョたちの顔を交互に捉えた。
ドサッ。
私は背中から無様にマットへ落下し、今日買ったばかりの最新鋭のウェアは、あろうことか足が空を向いた状態でピンと伸びていた。一瞬の静寂の後、ジム内に響き渡る私の「ウグッ」という情けない呼吸音。
全ての視線が私に集まった。 さっきまで黙々と鉄を叩いていた大胸筋の住人たちも、マシンを止めて私を凝視している。
私は、気まずさのあまり、そのままの姿勢で、いかにも「あえて逆立ちで体幹を鍛えていますよ?」という顔を作ってみた。顔面は真っ赤だったが、表情だけは無表情を貫く。
すると、一番近くにいた強面のマッチョが、呆れたような、しかし少しだけ笑いを堪えきれないような顔で近寄ってきた。
「……兄ちゃん、それ、負荷の設定が逆だよ。それ、一番重い設定のやつだ」
ああ、恥ずかしい。全身から冷や汗が吹き出す。 私は何食わぬ顔で立ち上がり、リストバンドを直すと、こう言い放った。
「失礼。今のは、最新の……重力無視のトレーニングでした」
そのまま足早にシャワー室へと駆け込んだのは言うまでもない。 家に帰り、プロテインを飲もうとしたが、手が震えてシェイカーをぶちまけたのは、また別のお話だ。
