7通の告別式:死者からの遺言書が刻むカウントダウン
「遺産を譲る相手を決めた。明日から七日間、地獄を見せてやる」
亡くなったはずの資産家、黒崎連太郎の葬儀が終わった翌朝、相続人たちのスマートフォンに一斉に通知が届いた。送信元は、確かに死んだはずの黒崎のメアドからだ。
それはイタズラか、あるいは誰かの悪質なジョークか。しかし、その夜、長男の修一が自室で消えた。密室の書斎に残されていたのは、血塗られた一通の便箋。そこには『1日目:強欲な者は、金貨の重みに耐えきれず沈む』という短い言葉が綴られていた。
崩壊する相続人たち
翌日から、恐怖のカウントダウンが始まった。
2日目、遺言の管理をしていた顧問弁護士が失踪。 3日目、莫大な借金を抱えていた次女が車ごと消息を絶つ。
警察が屋敷を包囲しても、最新の防犯カメラを設置しても、被害者は「消える」。まるで最初からこの世に存在していなかったかのように、物理的な痕跡すら残さず、一人、また一人とターゲットが間引かれていく。
残された相続人たちは、恐怖のあまり互いを疑い始めた。「誰かが黒崎の死を偽装しているのか?」「それとも、黒崎は死ぬ直前に、自分の命を奪った犯人への復讐をプログラムしていたのか?」
6日目の絶望
事態が急転したのは6日目の夜だった。屋敷に残されたのは、末っ子の青年、健人と、黒崎の忠実な執事だけ。
「犯人は誰だ?」健人が震える手で問いかけると、執事は静かに一枚の封筒を差し出した。それは、死者が最後に遺した「7通目」の予告状だった。
そこには、これまでの予告とは異なり、たった一行の短い文章と、一枚の古い写真が同封されていた。
『7日目:最後に残る“無垢なる者”の正体を、鏡で確認せよ』
完結:7日目の衝撃
健人は震える手で、廊下のアンティークミラーの前に立った。 鏡に映った自分の顔を見つめ、彼は絶句した。
そこに映っていたのは、恐怖に引きつった自分の顔ではない。黒崎の葬儀で、ただ一人だけが悲しみの涙を流し、誰からも「相続の権利がない不憫な遠縁」として扱われていた、あの青年だ。
しかし、鏡の向こう側の「彼」は、ニタリと歪んだ笑みを浮かべ、黒崎がいつも吸っていた銘柄のタバコを口元へ運んでいた。
7通目の手紙に書かれていた名前。それは、健人が戸籍上では「存在しないはずの人間」であるという証拠であり、黒崎連太郎という怪物が、自身の死をもって完成させた「最後の自画像」だった。
なぜなら、健人という人間は、かつて黒崎が切り捨てた過去の自分自身であり、その記憶を植え付けられたクローン(分身)だったのだから。
7日目の朝日が昇るころ、屋敷には誰の姿もなかった。ただ、机の上に置かれた日記帳には、美しい筆跡でこう記されていた。
「相続は完了した。私は、私を殺すために戻ってきた」
遺言書は、殺人の予告ではない。自分という存在を、完成させるための儀式だったのだ。