消えた栞が告げる死の予告:読書会を蝕む「プロット」の正体
静寂に包まれた書斎で、月例のミステリー読書会は幕を開けた。メンバーは6人。全員が筋金入りの本格ミステリー愛好家であり、この会で選ばれる課題図書は、どれも一筋縄ではいかない難解な傑作ばかりだった。
異変が起きたのは、先月のことだ。主宰者の高木が持参した古書から、挟まれていたはずの「栞」が消えていた。その栞は、高木が亡き妻から贈られた特別なものだったはずだ。しかし、高木は首を傾げ、「貸し出した覚えはない」と呟いただけだった。
その翌週、高木は自室で遺体となって発見された。奇妙なことに、現場の状況は、彼が最後に読書会で絶賛した『毒薬の回廊』のラストシーンと完全に一致していた。密室、毒殺、そして遺体の側に添えられた、見覚えのない新しい栞。
「これは、誰かによる死のシミュレーションだ」
メンバーの一人である探偵小説家の佐山は、戦慄しながら告げた。高木の死を皮切りに、読書会は恐怖のサロンへと変貌した。次の課題図書は、雪山の山荘を舞台にした密室殺人の物語。そしてその本を所有しているのは、気弱な女子大生の由紀だった。
「次は私の番なの?」
震える由紀の言葉に、メンバーの視線が交錯する。議論の対象となる本を所持している者が、その物語の結末をなぞるように殺される。これは単なる偶然か、それとも読書会の中に紛れ込んだ「作家」による殺人演出なのか。
犯人は、あえて次の課題図書を選定することで、死のプロットをコントロールしている。ターゲットを本の中に誘い込み、自らの手で殺すのではなく、被害者に「物語の結末」を演じさせるという狂気のショー。
読書会という名の密室で、ページをめくる指先が震える。次の被害者は誰か。そして、すべての物語を書き上げようとしている犯人の正体は。
栞が差し込まれる場所が、次の死の住所となる。誰の所有する本に、最後の栞が挟まれるのか。物語はまだ、最終章(エピローグ)を迎えていない。