死後3ヶ月の告発:なぜ「未来の僕」は亡き友の最期に立ち会ったのか
その通知音は、平穏な日常を切り裂くナイフのような鋭さを持っていた。
画面に表示されたのは、亡き親友・高木透からのメールだった。彼が謎の転落死を遂げてから、ちょうど3ヶ月。葬儀も終わり、遺族によるPCの整理も終わっていたはずのその端末から、予約送信されたと思われる動画ファイルが届いたのだ。
遺された「ラスト・メッセージ」
震える指で再生ボタンを押す。動画は、高木の部屋を映し出していた。生前、彼が趣味で使っていた定点カメラの映像だ。画面の中の高木は、怯えた様子で何者かと対峙している。
「これを見ている頃には、俺はもういない」
高木がカメラに向かって言い放った直後、背後のドアが勢いよく開いた。黒いパーカーを着た人物が飛び出し、高木を突き飛ばす。もみ合いになり、高木が窓際へ追い詰められる。
ここまでは、警察の報告書にあった通りだ。しかし、映像の左端、クローゼットの鏡に映り込んだ「あるもの」を見た瞬間、僕は息を呑んだ。
鏡の中に映っているのは、争う二人だけではない。その背後で、まるでこの光景を冷静に観察している、もう一人の男の姿があった。
それは、今の自分自身だった。
ネットの怪談が現実を侵食する
動画のタイムスタンプを確認する。撮影日時は3ヶ月前。間違いなく、高木が死んだ夜のものだ。しかし、鏡の中に映る僕は、現在の髪型、そして先月買ったばかりの腕時計を身につけていた。
「ありえない」
僕はすぐさまブラウザを開き、高木が死の直前に没頭していたネット掲示板のログを漁った。「デジタル・レプリカ」と呼ばれる怪談があった。死者が遺したデータが、見る者の記憶や未来を飲み込み、現実を改変していくという噂だ。
高木は、単に殺されたのではない。自分の死を「情報」として加工し、未来の僕をこの事件の共犯者に仕立て上げようとしているのか?
鏡の中の自分と目が合う
もう一度、動画を再生する。今度は一時停止を繰り返しながら、詳細にチェックした。すると、鏡の中の「僕」が、ゆっくりとこちらを向いて微笑んだ気がした。
その瞬間、僕の部屋のPCモニターが真っ暗になり、反射した画面に「現在の自分」の背後に立つ、誰かの気配が映り込んだ。
背筋に氷のような冷たいものが走る。振り返るのが怖い。しかし、逃げる場所などどこにもない。PCのスピーカーから、高木の死んだ直後のような、掠れた声が聞こえてきた。
「見つけたよ。ようやく、3ヶ月越しに僕の『代理』が完成した」
高木の死の真相は、殺害現場に隠されているのではない。この動画という「呪い」を受け取った瞬間に、僕の日常は彼が死んだあの夜へとループし始めたのだ。
次に動画を再生したとき、画面の中に映る「現在の僕」は、果たして僕自身のままでいられるのだろうか。
部屋のドアが、ゆっくりと音を立てて開いていく。 画面の中の高木が叫ぶ。「逃げろ」と。 しかし、その声はもう、僕がこれから辿る運命を予言する断末魔にしか聞こえなかった。