旅の土産は「調味料」だけ。スーパーの棚で出会った異国の風を自宅で呑み干す
観光地で、ありきたりな銘菓を買うことに飽きてしまった。箱に入ったクッキーや、誰に配るでもないキーホルダー。それらを見返すたびに、私は「あの場所の空気」をどれほど思い出せているだろうか。
ある日、私は気づいた。旅の記憶を最も鮮烈に引き出してくれるのは、景色でも思い出写真でもなく、舌の上に残った「あの土地の味」だと。
そうして私は、旅先で観光地を歩くのをやめた。その代わり、地元の人々が日常の買い物を楽しむ「ご当地スーパー」の、最も奥まった調味料棚に直行するようになったのだ。
スーパーの棚は、その土地の食文化の宝石箱
スーパーの調味料売り場には、その土地の性格がそのまま表れる。
たとえば、九州の醤油棚に並ぶ、とろりと甘い刺身醤油の数々。あるいは、東北のスーパーで異様な存在感を放つ、十種類以上の味噌やだし醤油。パッケージに書かれた「万能」「〇〇家秘伝」の文字は、私にとって観光パンフレットよりも遥かに魅力的な誘惑だ。
「これ、どうやって使うんだろう?」
見たこともないスパイスや、ラベルが剥げかけた謎の瓶をカゴに入れる瞬間こそ、旅のハイライトだ。現地では食べきれないほど買ってもいい。私の旅の目的は、その土地の「時間」を自宅へ持ち帰ることなのだから。
帰宅後、キッチンで始まる「禁断の晩酌」
旅から戻り、現実の日常が始まる。だが、私の食卓にはまだ旅の余韻が残っている。
例えば、沖縄のスーパーで見つけた「島とうがらし入りコーレーグース」と、どこかの地方の「カツオ出汁の効いた醤油」。これらを組み合わせ、スーパーで買ってきた鶏肉を漬け込んで焼いてみる。
ジュワッと立ち上る香りは、間違いなくあの日の風だ。冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、一口。
「……あぁ、これだ」
濃口の旨味と、突き抜けるようなスパイスの刺激。それは、ガイドブックのモデルコースをなぞるだけでは決して辿り着けない、私だけの記憶の再構築である。
旅の余韻を、もっと長く楽しむために
この「調味料だけ旅行」には、大きなメリットがある。それは、旅の思い出が数ヶ月にわたって続くことだ。
週末の晩酌、ふと思い出したようにあの醤油を使い、炒め物を作る。余ったスパイスを隠し味に、いつもの煮込み料理をアレンジする。そのたびに、スーパーで迷ったあの瞬間や、店員さんに話しかけた記憶が、湯気とともに蘇る。
土産物店に並ぶ洗練された商品も良い。だが、名もなきスーパーの棚に眠る「地元の日常」こそが、最高の旅の記憶になる。
次の休暇は、重いスーツケースに空きスペースをたっぷり作って出発しよう。中身をいっぱいの調味料で満たして帰れば、私のキッチンは、世界中を旅するレストランへと変わるのだから。
