3000円のトイレットペーパーを友人たちに「粉砕」された日の記録
人生には時として、身の丈に合わない贅沢をしたくなる瞬間がある。 私の場合、それが「3000円のトイレットペーパー」だった。
それは、箱入りで、まるで高級なチョコレートのような装丁で売られていた。店員さんが「これは肌が喜びますよ」と囁くのを聞いた瞬間、私の金銭感覚は一時的にバグを起こした。「トイレの時間が極上のスパに変わるなら、3000円など安い投資ではないか」と。
私は意気揚々とその「高級紙」を自宅のトイレに設置した。まるで宝物を祀るかのようにホルダーにセットし、来たるべき来客に備えていた。
その週末、家に遊びに来たのは、遠慮という言葉を辞書から引きちぎって捨てたような友人たちである。
「お、新しいトイレの芳香剤か?」 「いや、なんかペーパーの質感がすごいな。これ、羽毛か?」
リビングから聞こえてくるそんな会話に、私は内心ニヤリとしていた。気づいてくれたか。これぞ、貴族のたしなみ、3000円の肌触り。思う存分、そのケツでセレブの風を感じるがいい。
だが、私の甘い考えは、わずか3時間後に粉砕されることになる。
夕食後の歓談が終わり、最後にトイレに立った友人が戻ってきた時、ふと違和感を覚えた。いや、違和感ではない。絶望だ。
「……なんか、お前の家の紙、めちゃくちゃ質がいいな。全部使っちゃったよ」
背筋が凍りついた。私は脱兎のごとくトイレへ駆け込んだ。
そこには、無残に転がる真っ白な「芯」がひとつ。 3000円の高級紙は、どこへ消えたのか。彼らは一体、何を、どれほど拭けばこれほど完璧に使い切れるというのか。もしかして、全身でも拭いたのか? いや、それともトイレットペーパーという概念を紙粘土か何かと勘違いしたのか?
その光景を見た瞬間、私の脳内で何かが弾けた。
怒りではない。諦めでもない。それは、崩壊だった。 3000円の紙が消滅した事実を突きつけられたことで、私の金銭感覚という名のタガが、盛大に音を立てて外れたのだ。
「あはは……そうか、使い切っちゃったか。なら、次は1万円のトイレットペーパーでも買うか!」
私は翌日、ネット通販で「金箔入りトイレットペーパー」を検索していた。 もはや3000円が安く見える。むしろ、3000円で拭けていた頃の自分がケチ臭くすら思えてくる。これが「贅沢の入り口」というものだろうか。
現在、我が家のトイレには、もはや金銭価値がバグった住人が住み着いている。 もし皆さんの家で、トイレットペーパーが瞬時に消失する謎の事件が発生したら、それはあなたが「贅沢の深淵」に足を踏み入れたサインかもしれない。
……まあ、普通に考えれば、ただの「無駄遣い」なんですけどね。さあ、次はどんな紙で自分を癒そうか。
