覇王、渋谷を往く。織田信長が「スクランブル交差点」で見た天下の形
「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」という短気で革新的なイメージが先行する男、織田信長。彼がもし現代の日本にタイムスリップし、世界一のカオスが渦巻く渋谷スクランブル交差点に立ったらどうなるだろうか。
突如として現れた「尾張の覇王」
漆黒の南蛮胴を身にまとい、腰には名刀・圧切長谷部。時代錯誤も甚だしいその出立ちに、渋谷の若者たちは一瞬だけ目をやるものの、ハロウィンの仮装か何かだろうと即座にスルーを決める。
信長は、目の前の巨大スクリーンに映し出されるド派手な広告と、数千人の人間が四方八方から押し寄せる光景を、じっと射抜くような鋭い眼差しで見つめていた。
「ほう。これは……『兵(つわもの)』の数か?」
「楽市楽座」の究極進化に震える
信長は、信号が青に変わるたびに、まるで津波のように押し寄せる人の波を眺め、ふっと口角を上げた。
かつて彼は、既得権益を打破するために「楽市楽座」を敷き、商売の自由化を断行した。彼にとって、この街はまさにその理想の到達点だった。見ず知らずの他人が、境界も階級も関係なく一斉に交差点を渡り、またそれぞれの目的地へと散っていく。そこには旧来の「座(独占的な組合)」など存在しない。
「面白い。関所もなく、身分も問わず、これほどまでに自由闊達に人が動くとは。天下布武とは、戦の勝利ではなく、この『人の活気』を支配することだったのか」
スマホという名の「最新兵器」
そんな信長が最も驚いたのは、周囲の人々が握りしめている「スマートフォン」だった。
信長は、鉄砲を大量導入したことで知られる。遠くから敵を制圧するその威力にいち早く気づいた彼は、情報戦の重要性も熟知していたはずだ。ふと隣の若者がスマホで地図アプリを操作し、瞬時に目的地へのルートを検索する様子を盗み見た信長は、思わず腰の刀に手をかけた。
「……地図を掌に収め、空の向こうの異国の声を聞き、瞬時に情報を天下に回す。これぞ、我々が喉から手が出るほど欲しかった『兵法』そのものではないか」
彼は、最新のiPhoneを片手にTikTokで踊る若者を見て、かつて戦場で見た忍者の連絡網よりも遥かに高速な情報伝達網があることに気づき、愕然とした表情を浮かべた。
結論:渋谷は信長の「理想郷」だった
結局、信長は渋谷の喧騒を存分に楽しんだようだった。彼はコンビニで買った最新のペットボトルのお茶を片手に、スクランブル交差点を見下ろすビルのテラスでこう呟いた。
「ここには『天下』がある。誰もが王のように振る舞い、誰にも縛られず、常に新しい情報を追い求めている。……これなら、本能寺で終わる必要もなかったかもしれんな」
そう言うと、彼は人混みに紛れ、足早に新宿方面へと歩き出した。おそらく次は、高度なビル群が立ち並ぶあの超高層ビルに登り、上から天下を見下ろすつもりなのだろう。
もし、街中でやけに姿勢が良く、威圧的なオーラを放つ着流しの男がスマホを興味津々に眺めていたら、それは歴史を変えたあの男かもしれない。その時は、どうか静かに道を譲ってあげてほしい。彼は今、現代という名の新しい戦場を視察中なのだから。
