所持金1万円、サイコロ任せの無鉄砲旅。終電間際の胃袋と戦う「駅のホームの賭け」
「サイコロの出た目で行き先が決まる」。そんなテレビ番組のような企画を、大人になってから本気でやってみることにした。
予算はきっかり1万円。ルールは至ってシンプルだ。
- 最寄りの駅からサイコロを振り、出た目の数だけ駅を進む。
- 降りた駅で必ずその土地の名物、あるいは「名物っぽいもの」を食べる。
- 予算が尽きたら即終了。
無駄なプライドを捨て、私は始発の改札をくぐった。
第1投目:運命の分かれ道
最初の駅でサイコロを振る。勢いよく放り投げたサイコロは「4」を示した。 「……4駅先か。まあ、まだ余裕だな」
到着したのは、閑静な住宅街が広がる小さな駅。まだ午前中だが、ルールに従い「名物」を探す。駅前の老舗蕎麦屋に入り、地元産の山菜を使った蕎麦を啜る。これで850円の消費。残り9,150円。まだ余裕だ。この時はまだ、後に訪れる惨劇など知る由もなかった。
ギャンブルの代償:空腹との闘い
2投目、3投目と進むうちに、私の運勢は急降下した。 サイコロは無慈悲にも「6」を連発し、私は気づけば都心から大きく離れた寂れた無人駅に降り立っていた。
ここで課せられた試練は「ご当地グルメ」。しかし、周囲にはコンビニすらない。30分歩き回って見つけたのは、廃業寸前の喫茶店だった。そこで出てきたのは、なぜか「特製ソース焼きそば」。お値段1,200円。 「高い……。でも、食べなきゃルール違反だ」
空腹に焼かれたソースの香りが染み渡る。美味い。だが、財布の中身はみるみる減っていく。気づけば残り4,000円。時刻はすでに16時を回っていた。
最後の賭け、そして帰宅難民の危機
「あと1回だけ振ろう」
そう決めて投げたサイコロは、私をさらなる遠方へと突き放した。運賃だけで1,500円。一気に残金は2,500円になった。
降りた先は、夜風が吹き抜ける山あいの駅。当然、名物探しは困難を極める。震えながら商店街を探し歩き、ようやく見つけた「地酒と刺身の盛り合わせ」の看板。 「これだ!」 店に入り、調子に乗って注文した結果、お会計は2,800円。……あ、足りない。
「あの、すみません、端数の300円、小銭をかき集めますので!」
店主の温かい(そして少し呆れた)眼差しを受けながら、ポケットの奥底にあった10円玉や50円玉をカウンターに並べる。なんとか支払い、最後の10円を握りしめて駅に戻った。
結末:1万円と空っぽの財布
帰りの電車賃は、もはやクレジットカードでチャージするしかなかった。1万円という予算は、わずか半日で露と消えた。
しかし、不思議と清々しい気分だ。行き当たりばったりの焼きそばの味、必死に探した居酒屋の刺身の鮮度、そして最後の最後で小銭を数える恥ずかしさ。どれもスマホの地図アプリを頼りに計画的に旅行していたら、決して味わえなかった感情だ。
もし次にこの旅をするなら、もう少しサイコロの神様に愛されたいものだ。 ……いや、待てよ。またこの「無計画な焦燥感」を味わいたい自分がいる。
さあ、次はどこへ行こうか。とりあえず、まずは小銭を貯金箱から出すところから始めるとしよう。
