死者はSNSで呟く:デジタル遺品が明かした殺害予告の真実
「死んだはずの男が、今もツイートを続けている」
IT界の寵児と呼ばれた若き起業家、瀬戸内ハルトが自室で冷たくなって発見されたのは、先週の金曜日のことだ。死因は睡眠薬の過剰摂取。警察は早々に「自殺」と断定した。しかし、彼のX(旧Twitter)アカウントは、主を失った後も沈黙を守ることはなかった。
停止しないタイムライン
葬儀の翌日、彼の公式アカウントから投稿されたのは、たった一言だった。
『犯人を探せ』
遺族は戦慄した。当初はSNS側のシステムエラーか、何らかの追悼ボットかと疑われた。だが、その投稿は毎日決まった時間に、まるで彼が生きているかのような自然な文脈で、少しずつ「真実」を零し始めたのだ。
「監視カメラの映像は消された」 「金庫の中に鍵がある」 「コーヒーの苦味が消えない」
これらの投稿に、世間は騒然とした。ネット上では陰謀論が飛び交い、警察の捜査体制に批判が集中した。そんな中、私はフリーライターとして、瀬戸内の友人からデジタルフォレンジックの調査を依頼された。
デジタルフォレンジックが暴く「死後」の技術
私はまず、彼のパソコンとクラウドストレージの解析に着手した。しかし、そこには目立った痕跡はなかった。外部からのハッキングの形跡もなければ、予約投稿サービスのアカウントもクリーンだ。
私は一つの違和感に気づいた。投稿される内容が、あまりに断片的であること。まるで、誰かが瀬戸内の思考をトレースしているかのような――。
「予約投稿ではない。これは……プログラムそのものが瀬戸内本人になりすましているのか?」
私は彼のソースコードを徹底的に洗い出した。そして、彼の個人的なサーバーの深部で、ある「自律型AIスクリプト」を発見した。それは、彼の過去の投稿データ、メールの文面、そして彼が交わした数千通ものチャット内容を学習し、その思考パターンを再現する「デジタル・クローン」だった。
完璧な犯行トリック
真実は、死の直前に隠されていた。
瀬戸内は、自らの死を予感していたのではない。彼は、自分が何者かに殺されることを確信し、その「犯人」を特定するための証拠をAIに託していたのだ。
犯人は、彼の共同経営者だった。彼が仕組んだのは、単純な予約投稿ではない。瀬戸内のパソコンに侵入し、彼を殺害した直後、あらかじめ用意しておいたAIを「瀬戸内の生存」に見せかけて稼働させること。そして、世論を煽ることで警察の目を撹乱し、その隙に資産を洗浄する計画だった。
しかし、誤算があった。瀬戸内は生前、犯人である共同経営者が自分のサーバーに不正アクセスしようとしていることを察知し、ある「罠」をコードに仕込んでいたのだ。
AIが発信していたメッセージは、実はランダムなつぶやきではない。特定のハッシュタグと時刻を組み合わせることで、犯人が不正な資金移動を行った際の「アクセスログ」を、暗号化した文字列としてSNS上に流し続けていたのである。
告発の代償
私がその暗号を解読し、警察に証拠を提示した瞬間、犯人は逃亡の隙もなく確保された。
瀬戸内のアカウントは、事件解決の報告を最後に、ようやく停止した。最後に投稿されたのは、『ありがとう』という、彼らしい短い言葉だけだった。
デジタル遺品は嘘をつかない。たとえ魂が肉体を離れても、人間が構築した論理は、いつか必ず真実を語る。画面越しの死者の呟きは、私たちにそう教えてくれた。